はじめに

小児言語聴覚士・公認心理師のはるみちです
自分の気持ちが乱れてささくれてどうしようもなくなった時に、信頼できる友達や家族に話を聞いてもらって落ち着いた経験はありませんか?ちなみに私はよくあったりします。
これは心理学的にもしっかりと裏付けのある現象で、カタルシス効果・自己開示など様々な表現がなされています。
言葉で気持ちを上手く表現できる大人はカタルシスなんちゃらの恩恵を受けることができますが、子供はどうでしょう?
私が支援の現場で出会う子供達の中には気持ちのコントロールが難しく、突然泣き叫んだり、暴れてしまう子がいます。
それは決して“わがまま”でも“乱暴”でもなく、“どう伝えていいかわからない”“伝わらないもどかしさ”からくる行動であることが多いです。
私たち大人もせっかく伝えられるくらいの言語力を持っていても、どうしようもなく辛いタイミングなのに誰かに伝えらえる状況になければ、気持ちのコントロールが難しくなるものですよね。
そう考えると、子供の伝えられないしんどさの輪郭が少し見えてきそうな気がします。
今回の記事は子供のかんしゃくなど感情の爆発を軽減するためのヒントが多く書かれていますので、よければ最後までお付き合いください。
かんしゃくで伝えるAさんの例
Aさんは当時年少さんになったばかりの子でした。
明らかに嫌な気持ちになっている時や疲れている時も「嫌だ」「やめて」「疲れた」と言葉で表現することができません。
代わりに泣き喚いたり、床を強く踏みならすといった行動が見られました。そんな時は当然周りは困ってしまうわけですが、何よりも本人が一番辛そうでした。
また“疲れ”という感覚は特に未就学児には自覚しにくい感覚であったりします。他にも空腹や眠気などを感じる力(内需要感覚といいます)の発達が未熟だからです。
この内需要感覚は年齢とともに自然に育つことがほとんどですが、言語発達が伴わなければかんしゃくなどの表現に陥ってしまうケースが多いようです。
ことばが少しずつ増えてきたAさんの変化


支援開始後、半年くらいたってからAさんの表現の幅が少しずつ増え始めました。
まず最初に「いや」が言えるようになりました。これは文字通り嫌なことを自分から遠ざけたい、自分を守るための重要な表現です。
ノーガードで受けていたストレスを、ナンボか弾けるようになった状態と言えます。
「いや」と拒否を伝えることで、嫌な事を遠ざけて安心感を得られるという事実は、子供にとっては大きな発見・変化になるのではないでしょうか。
その他、「◯◯(が)いい」など、選択肢を与える事で「こっちは嫌」「こっちがマシ(好き)」という意思を表現できる様になりました。
すると不思議なことに、それまで毎度の様に見られていた感情の爆発が少しずつ減ったり、収まりやすくなってきました。
もちろんゼロになったわけではありませんが、「伝えられるようになり始めた」ことが、Aさんの気持ちを少しずつ落ち着かせているのを感じました。
“ことば”が育つと、“自分を整理する力”が育ってくる
私たち大人も感情がごちゃごちゃと散らかっている時は



なんでこんなにイライラしてるんだ?



とにかくしんどい…
このように自分の気持ちをうまく言葉にできないことがあります。
大人でも難しいのに、子供にとってはもっとハードルが上がってしまいそうですね。
だからこそ子供の気持ちに名前をつけてあげられることが大切になってきます。実際の支援の現場では以下のような取り組みを行います。
- 具体的なモノから、抽象的な感情に至るまでそれぞれ名前があることを知ってもらう
- 共感しつつ、今の子供の気持ちを代弁する
- “自分の気持ちを言って良いんだ”と安心感を持ってもらう
- 伝わる成功体験・伝えるモチベーションを得てもらう
感情をある程度コントロールする力とは、実はことばで気持ちを整理する力ととても関係が深い様に思います。


伝える力
子供達の発達支援に入っていると「ことばが出ない=ことばを理解していない」と周囲に思われているケースによく出会います。
でもよくよく観察をしていると、指先や目線や動作で自分の気持ちや意思を表現している様が見られるんです。つまり大人が伝えたいことばを理解できている事も多くあります。
そのため私が大切にしているのは、そこにある子供の「気持ち」や「伝えたいこと」を汲み取ること。
そして、その気持ちを代弁したり、子供の表現に言葉を添える手伝いをしながら「伝わった!」体験をできるだけ多く積んでもらうよう意識しています。


困っている保護者・支援者の方へ



なんでこんなにかんしゃくが多いのかな



思い通りにならんとすぐ暴れてしまう…
そんな悩みを抱える方もいらっしゃるかもしれません。ただそんな子供たちもことばが増えてくることで気持ちが落ち着いてくることがあります。
それは“ことば”がただの伝達手段というだけではなく、自分の気持ちを理解・整理し、表現できる力とも言えるからです。
焦って語彙を教え込もうとしなくても大丈夫です。
まずはその子が「何を伝えようとしているか」にセンサーを向けるだけで良いと思います。
毎回上手にキャッチしてあげられなくても大丈夫。
そばにいる人が自分の気持ちに向き合ってくれているという事実が、子供に安心感を与えます。その安心感がことばや表現を育てる大切な土台になります。
その土台に“自信”というお水をたくさん受けることで、大きな樹に育っていってほしいですね。