はじめに:ことばが出ない…その不安は自然なもの

小児言語聴覚士・公認心理士のはるみちです
「娘は2歳になったのに、まだ単語も喋ってくれない」
「息子は3歳だけど、周りの子と比べて話し方が全然違う…」
自分の子供の言葉が遅れていると気がついた時、親としてはとても不安になりますよね。
「待っていればそのうち話すよ」という声もあれば「今すぐ専門機関に相談したら?」という意見のどちらも耳にする機会があると思います。
どちらの意見もあることで余計に戸惑ってしまう方も多いのではないでしょうか。
実際、待っていればそのうち言葉が出てくるパターンもあることはあります。
ただ、「待っているだけでは今が勿体無いな」と感じる事例もこれまでに少なからず経験してきました。
なぜなら子供が発するサインに気づけることや、おうちでの関わり方を意識することで、子供の成長の大きな力になることが大いにあるからです。
このページでは小児言語聴覚士・公認心理師として実際に支援してきた経験をもとに以下の内容についてお伝えします。
- 言葉の発達の幅について
- お家でできる関わりのヒント
- 専門家に相談すべきタイミングや方法
一緒に「今できること」を考えてみましょう。
言葉の発達:すぐに「異常」とは言えない?


「1歳で意味のある単語を話す」
「2歳で2語文を話す」
子供の言葉の発達をこのように認識されている親御さんも少なくないと思います。
たしかに育児書や検診のチェックリストには「◯歳ではこれができる」という目安が書いてあります。
でも、実際の発達には大きな個人差があります
特に「言葉」は以下のような要因から影響を受けて、伸び方が大きく変わることがあります。
- 性格(慎重派、マイペースなど)
- 兄弟姉妹との関係(下の子は話す機会が少ないなど)
- 周囲の環境(言葉を使う場面があるか)
- その他の発達(運動、感覚、注意力など)
たとえば、2歳で3語文を話すけど動作はゆっくり。
また別のお子さんはめっちゃ走るのが早いけど言葉はのんびり…ということもよくあります。
つまり、「言葉」だけにフォーカスするのではなくて、「発達全体のバランス」を見ることが大切です。
そのうえで、少しだけ気にかけておきたい「サイン」があります。
次の章では言葉以外でチェックしたいポイントをご紹介します。
家庭の関わり5つのチェックポイント


子供の言葉が出ていない時は、ついつい「話すか話さないか」だけに注目してしまいがちです。
でも、実は言葉が出る前に、たくさんの言葉の土台となる力があります。
これらのサインを通じて
- 今どんな力が育ってきているのか
- 少し気になるところはないか
などを見る時のヒントが得られます。
⑴指さしをしているか


「あっち」
「これが欲しい」などを伝えるために指を刺すことはとても大切です。
指先には子供の注意・意識だけでなく、「想い」がめちゃめちゃ込められているもの。
言葉はなくても指差しがあるなら、その時どんな想いが込められているかを考えてみましょう。
⑵アイコンタクトがあるか


子供を呼びかけた時に目を合わせてくれることや、嬉しい時などに親の顔を見たりする行動は言葉の基礎になります。
「自分の気持ちがわかってもらえた」「伝わった」という成功体験の積み重ねがあると言葉が伸びやすくなると言われます。
⑶マネをするか


子供が言葉を発する時は、必ず周囲の人のマネから始まります。
そして、言葉のマネの前段階として動作のマネがあります。
ポーズ・ダンス・ジェスチャーや表情など、子供が普段マネをしているかチェックしてみましょう。



「おいしー」ときは“ほっぺツンツン”をやってみるとかオススメです
⑷音や名前に反応しているか
名前を読んだ時に振り向くか、音がした方向をみるかなど、音を認識しているかを確認します。
⑸何かを伝えようとする様子があるか
身振り手振り、表情や音など言葉以外の手段で表現しようとする様子があるかも大切です。
「言わない=わかっていない」とは限りません。
伝えたい気持ちが表れているなら大きな成長の途中だと言えます。
5チェックまとめ
これら5つのポイントはあくまで親の気づきのための目安です。
ひとつでも当てはまらないからといって、すぐに問題があるとは限りません。
でも、「あれ?」と感じた時こそ子供のことをよく見るきっかけになります。
その時の参考になれていれば幸いです。そうすると、毎日の関わりの中でできることが少しずつ見えてくるはずです。
次の章では、「家庭での関わりで大切にしたいこと」をご紹介します。
おうちでできること
言葉がまだ出ていない時は



もっと話しかけた方がいいのかな?



絵カードとかで練習すべき??
などなど色々と考えてしまいますよね。
もちろん、言葉の習得のためには刺激の入力(インプット)は必要です。
でも、実はもっと大切なのは「話したいな」「伝えたいな」という気持ちが子供の中に生まれる関わりです。
ここでは、おうちでできる基本的な関わり方を4つにまとめてご紹介します。
⑴子供の「伝わった!」を増やす
子供が発した声や動きを、その場で受け止めて反応してみましょう
例1:



じーっ(オモチャを見つめる)



欲しいの?はい、どうぞ
例2:



あーっ あー!!



‥!わんわん、いたねー
こういったやり取りの中で子供は「伝わった!」「わかってもらえる!」と感じ、気持ちを外に出す意欲が育ちます。
その意欲は言葉で表現するための土台へとなっていきます。
⑵子供の「好き」や「興味」に言葉を添える


遊びや生活の中で、子供が夢中になっているタイミングで言葉を添えるのがポイントです。
例2:子供が乗り物絵本をじっと見ている時に「ブーブー くるまだね」など。
子供が注目している“今”に言葉がトッピングされることで映像(事物)➕音(言葉)として記憶されやすくなります。
⑶質問攻めにしない
「これは何?」「欲しい?」「おしっこ??」「言ってみ?」など、子供の言葉や返答が欲しくてつい質問が増えてしまうことはありませんか?
問いかけが多すぎると子供は「答えなきゃ」と圧を感じ、余計に意思表出が難しくなる場合があります。
それよりも「実況中継」や「つぶやき」をしてあげる方が、リラックスして言葉に触れられる機会を提供できます。
- あむあむ〜 おいしー(ご飯の時)
- おしまい バイバーイ(オモチャ片付けの時) など
⑷子供がモノ申したくなる場面をつくる


楽しくその場を共有する。
遊びを共有する。子供が好きなものでやり取りなどができるととてもいいですね。
「目の前にいる人と一緒なら楽しいことがある」と子供が学習することで要求行動を引き出しやすくなります。
以下の様な場面を程よく設定すると効果的です。
- こそっと好きなオモチャを本人の手の届かないところに置く(とって)
- フタの硬い透明な容器の中に、欲しいものを入れて渡す(開けて)
- トランポリンなど一人では飛べない高さまで飛ばしてあげて、一旦ストップする(もっともっと)
※あんまりしつこくやりすぎると嫌がられる事もあるので注意
お家でできること4選まとめ
これら4項目は特別な道具も教材も基本的に必要ありません。
毎日の中でできる少しの工夫や気づきが子供の言葉の芽を育てていきます。
次の章ではもし不安が続く場合に「どのタイミングで、どこに相談すればいいか」をご紹介します。
相談のタイミングと選択肢


「様子を見ていていいのかな?」
「まだ小さいから、もう少し待った方がいいのかも」
そう考える気持ちは自然なことです。冒頭にもありましたが、待つことで言葉が出てくることも確かにあります。
でも、「ちょっと気になるかも」と感じた時こそ、相談のタイミングだとも言えます。
というのも、相談することには以下の様な大きなメリットがあるからです。
相談は不安を軽くする手段
相談そのものが「支援のスタート」と考えることができます
- 今の子供の発達状況を客観的に知ることができる(検査など)
- 専門家から「今は様子見でOK」と言われることで安心できる場合も多い
- 必要な場合に早めの支援を開始することで、専門家を交えた「発達支援チーム」を早期に構築できる
- ひとり(ふたり)だけで悩まなくてよくなる



早めに支援を始めることで、早めに支援を卒業されるパターンもあります。
どこに相談すればいいの?
以下の様な機関で、子供の発達について相談ができます。
かかりつけの小児科や、発達外来のある病院
担当医師が相談に乗ってくれます。必要があれば地域の市民病院や大学病院を紹介してくれたり、相談支援事業所や療育施設に繋いでくれる場合があります。
通っている保育園・幼稚園
園の保育士さんが対応してくれます。
園が発達支援事業所と繋がっていることが多いので、地元オススメの療育施設情報なども聞けるかもしれません。



私の経験上、①かかりつけ医師②園の保育士への相談がよく聞く2大王道パターンです。
療育センター・発達支援事業所
発達に関する専門機関で、発達・コミュニケーション・行動などに関する専門職(保育士・言語聴覚士・公認心理師・作業療法士など)が在籍しています。
直接的な療育支援やご家族への相談支援などを行います。



保護者さんが地域の発達支援事業所をネット検索して直接相談に来られるパターンや、園の先生から紹介される事が多いです。
相談支援事業所
相談支援専門員が発達などに関する相談を受け付け、聞き取り調査などから助言や情報提供、支援にかかる計画作成、関係機関(発達支援事業所など)との連絡調整、その後のフォローなどを行います。



最初からここに相談する例は少ないですが、療育を開始する場合は必ず相談支援専門員に担当してもらうことが必要です。
市区町村の保健センター
乳幼児検診後のフォロー相談や、発達相談を受け付けているところが多いです。
ただ自治体による温度差が結構あるかもしれません。。
相談=「問題あり」と言われるわけではありません



でもでも、相談すると“発達に問題アリ”と言われるんじゃ?
このように心配される方もおられます。
でも実際には「まだ年齢相応の範囲内なので、安心して様子を見ていいですよ」と言われることも多くあります。
また、専門家と早めに繋がっておくことで得られるメリットも多くあります。
迷った時は、「相談=支援のきっかけ」くらいの気持ちで、一歩を踏み出してみても良いかもしれませんね。
おわりに
子供の言葉がなかなか出てこないと不安な気持ちになりますよね。
場合によっては自分のことを責めてしまう親御さんもいらっしゃるのではないかと思います。
でも、言葉の発達には本当にたくさんの要素が関わっていて、「誰か一人のせい」ということは考えにくいのです。
この記事をここまで読んでいただいている時点で「子供のことを真剣に考えており、その姿勢がすでに“支援”になっています。
言葉は出ていなくても、子供の中ではたくさんの力が少しずつ育っているモノです。その力の芽を育てるための関わりが日々の中にたくさんあります。
今からできることを、お互いに少しずつ積み重ねていってみましょう。