
小児言語聴覚士・公認心理師の「はるみち」です。
2歳、3歳になっても子供から意味ある言葉が出ないと悩む親御さんは多くいらっしゃると思います。
言葉の発達は特に個人差が大きい領域ですが、「遅れている…?」と思うととても不安になりますよね。
今回の記事では子供が言葉を発するために、毎日のかかわりで大人が意識すると有効なポイントについて解説していきます。キーワードは指差しです。
指差しの理解を大人が深める事で以下の様な事が期待できます。
この記事から学べる事
- 子供がする指差しは「どの」指差しなのか
- 日常でできる言葉を促すトレーニングのやり方
指差しには実はいろんな意味が込められています。
実際の療育現場でも利用される指差しトレーニングを含めて言語聴覚士・公認心理師である筆者がお伝えしていこうと思います。
宜しければ最後までお付き合いください。
言葉に繋がる指差し。実は5段階あった!?


※上記の表は大筋の段階であり、中には順番が前後する子供さんもいらっしゃいます。
私たちは「ことば」で気持ちや考えを表現します。
まだ言葉を話せない子供は…泣き声や目線そして身体の動きなどで気持ちを表しますね。
指差しは泣き声や身体の動きよりも進化した気持ちの表現だと考える事ができます。
そして指差しから更に進化した表現「ことば」の獲得につながってゆきます。
指差し5段階が理解できると以下の様なことができるようになります。
- 子供がどの段階の指差しでつまづいているか
- 子供の発達段階に合わせた大人の関わり方
スプーンを上手に使えない子供にお箸の使い方を教えてもあまり効果的とはいえませんよね。
同じように指差し段階2でつまづいている子供に、指差し段階5を要求するような関わりをしてもあまり上手くいきません。
それでは指差しという案外ふわっとした動作の意味を、サクサク切り分ける事で理解を深めていってみましょう。
前段階
子供はいきなり指差しをすることはできません。大人がする指差しを子供が見るところがスタートラインになります。
指差しの前段階は生後5ヶ月頃から始まるといわれます。概ね18ヶ月までの間に下図のような反応が現れます。


前段階の成立はこれから始まる指差し発達の基礎となる重要なプロセスとなります。
- まずは大人の指差しそのものを見る
- 大人の指差しを経由して対象物を追えるようになる
- 自分で何らかの指差しをするようになってくる



まずは理解(インプット)から始まり、表現(アウトプット)に繋がっていくということですね
段階1 興味・驚き・再認の指差し
8〜9か月になってくると子供が自分でやる指差しが出始めます。その指差しにはどんな意味が込められているのでしょうか?


子供が最初に行う指差しには上記の様な3つの意味があるといわれます。
ただしこの段階では「自分とモノ」、もしくは「自分と人」といった直線的な関係でしかありません。
本人がリラックスできる状況で、動いているモノなどに対して出やすいといわれます。
お気に入りの玩具ができると指差しが出やすい事もあるようです。



我が子はゆっくり動くアヒルの玩具がお気に入りでした。
段階2 要求の指差し
「これ欲しいな」という外に向かう自分の気持ちが指先に乗りはじめます。11ヶ月頃から見られる反応と言われます。
冒頭にもありましたが、「指差し」も「言葉」も外に向かって自分の気持ちを表す手段です。
指先に気持ちを乗せる事は、言葉に気持ちを乗せるための大きな一歩ともいえます。
段階3 感動・共感の指差し
ここから指差しの発達レベルがグッと上がってきます。
段階2までは「子供とモノ」「子供と人」といった直線的な2つだけの関係で成立する指差しでした。
段階3からは「子供とモノと人」といった三角形が成立する必要があります。下図を参照下さい。


上記のように、「自分・モノ・人」と3つの項目がトライアングルを作る必要があリます。
このトライアングルのことを3項関係と呼びます。
言葉だけでなく社会性や、他の発達領域において3項関係はとても大切な発達指標となります。
3項関係について詳しくは別記事をご参照ください。


段階4 質問の指差し
大人からのレスポンスを期待している指差しになります。
「これは何だろう?」と感動の指差しと比べて更に深く関心を持っていると考えられます。
大人でも「かわいい犬だね(感動)」よりも「かわいい犬だね。何ていう種類なんだろう?(質問)」の方がより深い関心を持っていると言えそうですね。
段階5 応答の指差し
1歳半検診で確認されるのは、実はこの「応答の指差し」です。



「ママはどこ?」
など簡単な音声言語の指示に子供が正しく反応できるかを問います。
正しく反応できるためには以下の条件を子供が全てクリアできている必要があります。
- 大人の存在と言葉に注意を向ける事ができる
- 大人の言葉を理解できる
- 大人の言葉を理解したうえで、自分の意思を外に出すことができる
突然ですが筆者の妻は、筆者の問いかけに対して1度は必ず「え?」と聞き返します。
これはなぜかというと筆者という存在に関心を向けていない(泣)ため、音声言語を捕まえづらいためです。
言葉を捕まえるためには相手を意識し、多少なりとも耳を傾ける必要があります。でなければ言葉はすぐに消えてしまうのです。
子供が言葉を理解する事ができ、正しく反応を示すことができているのなら「もうすぐ言葉が出てくるな」というサインになります。
子供の言葉を促すトレーニング方法
指差し発達5段階について理解を深めることができたら、今度はトレーニングの実践編になります。
段階1 そもそも指差しをしない
前段階となる大人がする指差しを子供が見る機会が少ないことが原因として考えられます。
子供の視線がパパやママに向いているなら、パパが自身を指差しながら「パーパ」と言う。ママの方を指差し「マーマ」と言う。
子供の視線が汽車の玩具に向いているなら視線の先を遮らないよう「ポッポー」などと言いながら指差して見せます。以下ポイントです。
- 子供が注目している対象を遮らない
- 対象の近くで大人の指差しを添え、子供の視界に入れる
- 言葉を付け加えるなら、単純な音の繰り返しを推奨
- 毎日一回は指差しを見せてあげる事を意識する
段階2 ちょっとは指差しするけど少ない
成功体験を多く積ませましょう。
大人でも自分が起こしたアクションに何の結果もついてこなかったら、そしてそれが何度も繰り返されたら「もういいや」とアクションをしなくなることがあるでしょう。
逆に自分が起こしたアクションに何らかの結果がついてきたら、「もっとやってみよう」とモチベーションが上がる方がほとんどではないでしょうか。そこは子供も大人も同じなのです。
子供の指差しを見たら、すかさず大人も子供の視界に入って真似をします。
何の指差しなのか正直よくわからなくても、子供が起こしたアクションに大人が反応してあげることが大切です。
- 大人が反応を示す
- 子供の目の前で大人が真似して指差す
- 「欲しい?」「どーぞ」など音声を加えてあげる
上記のポイントは指差しをした子供にとって「報酬」になる場合が多いです。報酬をもらうとやる気が出るのは人の常ですね。
ただ「子供の指差しを見逃すまい!」と大人が力を入れる必要はありません。この記事を読んでいる時点で、もう子供の指差しに対する意識は変わってきていると思います。
段階3〜4 モノにしか指差ししない
「ヒトへの関心」を子供に持ってもらう必要があります。
前述の通り段階3以降はグッと難易度が上がるところです。
モノにしか指差しをしない場合は、ヒトへの関心が薄いことがほとんどです。
ヒトへの関心が低いと、子供が興味を持った対象を誰かにシェアしようという段階へ繋がり辛いです。
そのためヒトへの関心を持ってもらうためのポイントを以下にいくつか表します。
- 親が安心できる場所だと認識してもらうためのスキンシップを多く取る
- ツンツン刺激や歌など、道具を使わなくても子供が喜ぶ刺激を探してみる
- インリアル・アプローチで接してみる(↓詳細は別記事を参照ください↓)


段階5 指差し応答をしてくれない
段階4までの反応がある場合は言葉の理解が原因である可能性が高いです。
問いかけに表情や目線、首振りなどで「表現」できていれば、指差しに拘る必要はありません。
検診などで聴力に問題がなければ以下の点に注意してみましょう。
- 単純な言葉で話しかける
- 毎日決まった状況の中で決まった問いかけをする
毎日のご飯タイムを例に挙げます。
「Aちゃんごはん食べようか?と問いかけるよりも「まんま する?」と問う方が理解しやすくなります。
ご飯を「さぁ食べるぞ」という決まった状況で「まんま」など決まったキーワードで問いかけをする。
子供にとっては、言葉を理解するよりも状況を理解する方がわかりやすいです。
そのため「決まった状況に合わせて、簡単な言葉をトッピングして問いかける」と考えるとイメージしやすいかもしれません。
まとめ
ここまで指差しの発達についてお話しをしてきました。
子供は「ことば」という表現方法を獲得する前に、「指差し」という表現を獲得し意思や気持ちを伝えるようになリます。
ざっくりとでも子供の発達段階に合わせた大人の関わりがあると、必ず子供の助けになるはずです。
この記事が悩む周囲の方々の一助になれば幸いです。