
小児言語聴覚士・公認心理師の「はるみち」です。
子供の最初の言葉が出る目安は1歳前後とよく言われます。
しかしこれはあくまでも目安でしかなく、3歳〜4歳頃まで意味のある言葉を話さない子供さんも中にはおられます。
筆者の甥っ子も3歳まで意味のある言葉が出ませんでした。
「個人差があるよ」という言葉は、当時の私の姉には響かなかった事を今でもはっきりと思い出せます。
この記事では「言葉が出ない子供がいる」と悩む親御さんや支援者の方に対して、下記の内容について学べます。
この記事で学べること
- 言葉が出るための準備はどれだけ進んでいるのか
- 言葉が出る前の子供の反応に気をつけるポイントはあるか
- 共同注意とは何か
耳慣れない「共同注意」という言葉が出てきました。これは専門的な概念のひとつであり、子供の発達を図る重要な物差しになります。
今回は共同注意と言う概念に注目して小児療育専門の言語聴覚士・公認心理師である筆者が解説していきます。
よろしければ最後までお付き合い下さい。
コミュニケーションの土台。共同注意とは?


子供の発達において共同注意という反応が重要です。これは言葉が出る前の段階として普段の生活から確認できている必要があります。
共同注意とは誰かが見ているモノを、他の人が意思をもって一緒に見ている様な状態であると言えます。
例えばママがパン屋を見ているとき、子供が以下のような反応をすることです。



じーっ…(ママがパン屋を見ている)



え?何見てんの?(子供もパン屋を見る)
上記のやり取りの様に、子供がママの目線を追いパン屋を見る様な状態です。
目安として概ね9ヶ月〜11ヶ月前後からその様な反応がみられ始めると言われます。
共同注意から期待できること
共同注意とはいわば「大人と子供が何かを共有できてるみたいだなー」ということです。
これにより以下のようなコミュニケーションの基礎が出来てきます。
- 他者への理解
- 発語や言語の理解
- 社会性の発達
など
共同注意が成立している=誰かと色々な事象を共有できる
誰かと色んなモノを共有できる世界>自分だけの世界



もっと大きな世界から、いっぱい吸収するための土台ができたよー
共同注意が成立している子供達からは、そんなメッセージを受け取る事ができると考えられます。
共同注意の素材になるもの
ここでは土台を作り上げる素材達のお話をさせて頂きます。これらは一つずつ順番に獲得していくわけではなく、それぞれに影響し合いながら発達していきます。
以下の3つが共同注意の素材です
素材①目線・アイコンタクト
「目は口ほどにモノを言う」という言葉がありますが、目線には意思や感情など様々な情報が詰まっています。それを子供が目線から情報を発し、受け取ることで素材①が出来上がっていきます。
以下のような流れです。
- 好きな玩具に向ける
- ママに向ける
- パパと目が合う(アイコンタクト)
- バァバが見ている哺乳瓶に向ける(視線追従)
- あのモフモフ(犬)なぁに?
↓
と、ジィジに視線を向けると笑いかけてくれた
↓
どうやら大丈夫らしいな と参考にする(社会的参照)
素材②指差し
誰かが指差す方向に注意を向ける事ができるようになる(指差し理解)
自分が気になるものを指差し、ママパパの注意を引く(共感/要求の指差し等)
素材2項関係
3項があるということは、2があるんです。
2項関係とは以下のようなものです。
自分と玩具
自分とママ
自分と犬 など
ここまではまだ自分だけの世界です(2項関係)
自分とママと犬が側にいたとしても、ママが関心を寄せている事を分かった上で犬を見ていなければ2項関係です。
「この毛モフモフ 気持ち良いぞ」 とママを見ると微笑んでくれた
「ママがモフモフを触ってニコニコしてるぞ。私も触ってみよう」と
モノを介して他者と関わる
他者を介してモノと関わる この様な状態が3項関係が成立しているといえます。
共同注意に関わる支援の実例


ここからは、共同注意に関わる支援の実例を解説します。
ASD(自閉スペクトラム症)の診断を受けている3歳女の子(以下Aちゃん)の実例です。
以下が支援実施の際のおおまかなポイントです。
- 好きな玩具や活動を知る
- 真似をし、真似をしてもらう
- 大人と一緒じゃないと出来ない体験をしてもらう



目線が合わず、いつも斜め上あたりを見ている女の子でした
順を追って解説していきます。
好きな玩具・活動を知る
好きな対象を知ることでAちゃんのモノに対する2項関係を把握します。
共同注意は得られませんし、3項関係の成立も困難です。
そのため2項関係に立ち返り、人(私)に対する関係性を構築・強化する必要があります。
今回のケースではメルちゃんの人形遊びがAちゃんのお気に入りでした。


真似をし、真似してもらう
本人にとって楽しい活動をしていると繰り返し見る動作が出現する事があります。Aちゃんの場合は2回、3回と手を叩く事でした。
手を叩く動作が出る時はすかさず真似をします。これには以下のような狙いがあります。
- 同じ動作で親近感を持ってもらう心理効果
- 楽しい気持ちを受け取ってるよPR
- 成功体験の積み重ね
- 2項目(Aー筆者)の強化
Aちゃんにとって「伝わった!」という成功体験を重ねてもらうことも大事です。
2項関係が強化されてくると、今度はAちゃんがこちらの動作を真似してくれる反応が現れ始めました。
動作の真似は言葉の真似に繋がっていきます。
ちなみに子供への接し方についてはインリアル・アプローチという方法を意識して実施しています。詳しくは別記事をご参照ください。


大人と一緒じゃないと出来ない体験をしてもらう
お気に入りのメルちゃんが可愛い帽子をかぶってくれた…
見た目が少し変わることで、お気に入りのモノを更に大好きになることがありますね。
Aちゃん一人では上手に帽子を被せてあげることができません。そこで大人の手を借り、帽子を被せてあげることに成功しました。
初めて成功できた時は、それはそれは可愛い笑顔をこちらに向けてくれました。
この様なポイントを意識しながら支援に入り続けました。その間は園や保護者さんと情報を共有することも重要です。
上記のような関わりを半年程度続けた結果、以下のような言葉を耳にする日が訪れたのです。



あか りんご



うん。りんご、赤だねぇ(キター!!)
上記のAちゃんの反応は、メルちゃんセットに書いてあるりんごの絵柄を見て発した言葉でした。
この頃には共同注意が得られる頻度も上がり、3項関係も支援開始の時に比べるとかなり成立し易くなっていました。
まとめ
今回は共同注意という考え方に注目して、子供の言葉の発達について解説してみました。
共同注意や3項関係が成立しているかどうか、普段の生活や支援の現場で意識しながら子供達と関わってみましょう。
きっと、これまで以上に子供達のメッセージから気づける事が増えるはずです。
本記事が、子供の言葉が出ずに悩む皆様の一助になれば幸いです。